瓦礫の散乱する都市部での円滑な戦闘活動のために歩兵戦闘車が車輪よりも踏破性の高い多関節式の脚部を備えたのが始まり。黎明期には4脚式や6脚式が見られたが、技術の発達と整備性の観点から、2脚式が主流になった。そのころには脚部のみならず、マニピュレーターとして腕部を備えた機種も登場し、歩兵戦闘車自体に歩兵の能力と役割を与えた「歩兵戦闘車歩兵(Infantry Fighting Vehicle Infantry)」が誕生。多岐に渡る兵装のプラットフォームとして優秀だったため戦場で存在感を増していき、その高い汎用性と戦闘力から、以後独自の兵器カテゴリーとして発展。包括的な名称として「車輛歩兵(Vehicle Infantry)」と呼ばれるようになり、やがて略称の「ヴィンファント(Vinfant)」が定着した。「ヴィンファント」という名称は当初、SF作品から飛び出てきた様な人型形態とその兵器としての信頼性への疑いから「幼児」を意味する「インファント(Infant)」をもじった側面があった(凶悪な兵器は得てして可愛らしいあだ名がつけられるものである…)。22世紀現在では、ヴィンファントは「汎用多地形対応式戦闘装甲新世代車輛(Versatile Inter-terrain Navigating & Fighting Armored New-generation Transport)」のアクロニムだとされることが多い。
21世紀に誕生した安価な自爆ドローンや滑空爆弾による飽和攻撃という戦術は、戦場から高価な主力戦車(MBT)をはじめとする陸戦兵器を一時期退場させるに至った。いかに分厚い複合装甲を持とうとも、無数の空からの脅威の前では、コストに見合わない巨大な的でしかなかったからだ。しかし21世紀半ば過ぎ、安価かつ小型化された「100kw以上の高出力レーザー」などを用いた高度なAPS(Active Protection System、アクティブ防護システム)の実用化によってコストに見合った迎撃が可能になり、陸戦兵器は劇的な復権を果たした。2脚式歩行車輛「ヴィンファント」はその運用プラットフォームの最適解だった。
ヴィンファントの戦場における最大の存在意義は、それ自体が極めて高度な「歩くAPS 」として機能する点にある。かつて2足歩行兵器の弱点とされた「車高の高さ」と「正面投影面積の大きさ」は、全方位の脅威を検知し迎撃するためのセンサー群とランチャー群を空間的余裕をもって配置できる、理想的な特長へと反転した。さらに、ヴィンファントの主戦場となる高層建築物や遮蔽物が密集する都市部においては、高い視点からの索敵と射線の確保が不可欠であり、結果として全高約6mというサイズが戦術的な最適解となっている。
大半のヴィンファントが共通して持つ「巨大な肩部」や「肥大化した大腿部」のシルエットは、単なる駆動系や重装甲の塊ではない。その表面は細かなパネル状のモジュールに分割されており、標準装備として内部に多数のAPS用迎撃飛翔体ランチャーを収めている。ヴィンファントは、敵の安価なドローン群や多連装ロケット、ミサイルなどによる飽和攻撃に対抗するため、機体各所に分散配置されたモジュールからなる高度な多層防御を展開する。
ドローンや誘導ミサイルが飛来した際、まずは電子戦モジュールが広帯域のジャミング電波や欺瞞信号を放射。敵弾の誘導装置を狂わせ、あらぬ方向へ逸らす。
欺瞞をすり抜けた脅威に対し、機体各所に分散配置された100kW超の高出力レーザーが起動する。安価なドローン群や自律型無人機に対しては非常に有効。自律AIの火器管制により、秒間数十の目標を捕捉し、推進器や光学センサーを熱によって焼き切る。
レーザーでも焼き切れなかった直前の脅威や、多連装ロケットおよび迫撃砲などによる面制圧に対しては、大腿部や肩部の装甲パネルが展開。無数のタングステン球をばら撒く指向性散弾や、至近距離で起爆するマイクロ迎撃ミサイルなどによって物理的な弾幕を形成し、空中で粉砕する。
最も防ぐことが困難な徹甲弾(APFSDS)などの極超音速の運動エネルギー弾に対しては、装甲表面のパネルから爆発成形侵徹体(EFP)をピンポイントで射出。超音速の自己鍛造弾を敵弾の側面に衝突させることで、強引に弾芯を破壊、あるいはその軌道を偏向させ、直撃を免れる。
遠距離からの様々な種類の攻撃を「撃ち落とす」、あるいは「逸らす」ことが可能という強力なアクティブ防護能力を手に入れたことで、ヴィンファントは鋼鉄の雨を掻き分けながら前線を押し上げる、新時代の陸戦の王者として君臨している。
ヴィンファントはこれらAPSの恩恵により、単騎で一個中隊の火力を無効化するほどの生存性を誇るが、決して無敵の盾ではない。現代戦における最大の脅威は、このAPSの処理能力を意図的にパンクさせる「防護飽和限界(サチュレーションリミット)」の超過である。
第二層の主力である高出力レーザーは弾切れこそないものの、連続照射による凄まじい排熱処理が機体の冷却限界を超えると、大幅な性能低下を引き起こしてしまう。
第三層の散弾や第四層のEFPなどの物理迎撃体は、装甲パネル内に格納された「使い捨ての弾薬」である。激しい波状攻撃を受け続ければ、いずれモジュールは撃ち尽くされ、防衛網に致命的な穴が生じてしまう。
このため、現代の対ヴィンファントの基本戦術は「ヴィンファントのAPS処理上限を上回る、圧倒的多数の安価なロケットや囮ドローンを同時にぶつけて防衛網をパンク(リソース枯渇)させ、その瞬間に本命であるHEAT弾や極超音速の徹甲弾(APFSDS)、対戦車ミサイルなどを叩き込む」というものになる。ヴィンファントのパイロットたちは常にAPSのリソース(レーザーの冷却率や残存する迎撃モジュールの数)を示すインジケーターに神経を尖らせており、飽和限界を迎える前に敵機を破壊するか、地形の遮蔽物に逃げ込むかの決断を迫られるのである。
22世紀の機甲戦を支えるヴィンファントの動力源には、量子電池が採用されている。シリカの一種であるトリディマイトを用いたPTI伝導(温度が変わっても熱伝導率が一定)の実現と、電子のスピンの性質を利用するスピントロニクス半導体を高度に組み合わせることで、従来のバッテリーとは比較にならない超高速充電・超高速放電、そして長大な稼働時間を実現した。これにより6mもの大型機体の敏捷なマニューバの他、内蔵APSとしての100kW超高出力レーザーの連続照射といった莫大なエネルギー消費を瞬時に賄うことが可能となった。しかしその様な超高速のエネルギー遷移(放電)は、同時に機体内部に膨大な熱の蓄積を生む。排熱処理が追いつかなければ機体の各種機構や搭乗パイロットに致命的なダメージを負わせることになるため、ヴィンファントには大容量の相変化冷却触媒と無数のマイクロチャンネル・ヒートシンクの搭載が不可欠。機体に標準搭載のそれら冷媒とヒートシンクでは追いつかない場合もあり、戦場のヴィンファントの多くには強制冷却バックパックが追加装備されている。
